「未来価値の想像」 MIT 石井裕 × amnimo 谷口功一
未来へのヒント2018 対談抄録

テクノロジーの進化スピードは、
いつでも予測を超えていく。
けれども、その目まぐるしい流れに飲み込まれることなく、自らが先導となり波をきってゆく人達がいる。
彼らが最先端から見つめる未来には、
何が待っているのか。
さらなるステージを目指して動き出したプロジェクトの一旦を開示してもらうと共に、
未来を創造する原動力や思いを自由に語っていただいた。

情報は流れたがっている。
堰を止めずに、ゲートをどう押させるか。

石井裕

MIT メディアラボ副所長
石井 裕
1956 年生まれ。マサチューセッツ工科大学教授、メディアラボ副所長。日本電信電話公社(現NTT)、西ドイツのGMD 研究所客員研究員、トロント大学客員助教授、NTT ヒューマンインターフェース研究所を経て、95 年、MIT (マサチューセッツ工科大学)メディアラボ准教授に就任。2006 年、国際学会 のCHI (コンピュータ・ヒューマン・インターフェース)より、長年にわたる功績と研究の世界的な影響力が評価されCHI アカデミーを受賞。

谷口
ご無沙汰しております。石井先生は、情報をフィジカルに扱うという発想を基に「タンジブル・ビッツ」*1研究の創始者として世界をリードされていますが、今日はぜひテクノロジー周辺の未来洞察のヒントのようなものをいただければと思って参りました。タンジブルメディアの今後というか、目指している方向性と当社の未来がどこかでつながると面白いと思っているのですが、何か接点はありそうですか。
石井
はい、たくさんあると思います。そもそもタンジブルというのは、物理的に触れるだけではなくて、実在を自分が確信できるという意味もあります。クラウドのウェブサービスのCookies の中に、私たちは知らないうちにいっぱい鍵を持っていますよね。でもどれがどこにあるのか分からないし、ハックされても全然分からない。でも物理的な鍵束がいつもポケットにあれば、いつでも座るたびにそこに「ある」と感じられる。僕のウエストバッグと同じでパスポートから何まで全部入ってる。ここにあるんだ、ということ自体が安心感につながる。ピクセルというのは非常に儚いものです。それを助けるのがタンジブルで、そういう人間の根本的な…。
谷口
安心欲求ですか。
石井
安心と…そしてやっぱり喜び。柔らかいブランケットのように、自分にとって心地よいもの、ですね。フィジカルワードが物理的マテリアルを通して提供できる存在感というのは強烈なのです。僕は今、その物理的マテリアルをハックして、その形状や性質をダイナミックにコンピューティングにより変えられる新しいマテリアル「ラディカル・アトムズ」*2に取り組んでいます。谷口さんは会社をたちあげられたところなのですよね。今、エキサイティングなご気分では。
谷口
そうですね(笑)。社名を考える時には、ラテン語のamnis(流れ)とmodum(計測する)という言葉をヒントにしたのですが、そこにはお客様の仕事の流れや人間の営みの流れを測って、価値に転換してゆくという願いを込めました。事象って留まることはなく必ず変化を遂げていますよね。それを捉えて新しい価値につなげてゆきたいと思っています。
石井
いいですね。僕はフローという言葉が非常に好き。ロジスティクスやサプライチェーンという分野におけるスムーズな流れということで考えると、御社の計測ビジネス(計測サービス)を取り巻くエコシステムにおけるデーターの流れにもつながっていますね。
谷口
それもあるでしょうし、さらに人間や企業体のワークフローまでをイメージしています。
石井
情報は流水で、情報は流れたがっている。その堰を止めずにゲートをどう押させるか。その流れはどう変わっていくのか。そこが肝心です。僕は2008 年頃より、ネットワークを流れる情報フローをアナライズして情報系の会社へさまざまなアドバイスを行ってきました。いろいろなデバイスとクラウドを通って、情報は流れますが、その流れを計測するという視点には興味があります。
石井裕

MIT メディアラボ副所長
石井 裕
1956 年生まれ。マサチューセッツ工科大学教授、メディアラボ副所長。日本電信電話公社(現NTT)、西ドイツのGMD 研究所客員研究員、トロント大学客員助教授、NTT ヒューマンインターフェース研究所を経て、95 年、MIT (マサチューセッツ工科大学)メディアラボ准教授に就任。2006 年、国際学会 のCHI (コンピュータ・ヒューマン・インターフェース)より、長年にわたる功績と研究の世界的な影響力が評価されCHI アカデミーを受賞。

谷口 功一

アムニモ株式会社
代表取締役社長
谷口 功一
1967年生まれ。アムニモ株式会社代表取締役社長。富士写真フイルム、シスコシステムズ、ミスミを経て、2015年、横河電機入社、事業開発センターを設立し、センター長就任。2018 年、横河電機100%子会社としてアムニモを設立し、代表取締役社長に就任。

人々が生き生きとした、
貢献しあっている世界。

谷口 功一

アムニモ株式会社
代表取締役社長
谷口 功一
1967年生まれ。アムニモ株式会社代表取締役社長。富士写真フイルム、シスコシステムズ、ミスミを経て、2015年、横河電機入社、事業開発センターを設立し、センター長就任。2018 年、横河電機100%子会社としてアムニモを設立し、代表取締役社長に就任。

谷口
現在はVUCA ワールド[Volatility(不安定性)、Uncertainty (不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)]だと言われますが、われわれが行った洞察の活動を通して、その先にカオス、デジュール、デファクト、コラボラティブワールド、の四つの未来が見えてきました。今日はそれぞれについて詳細にお話はできませんが、私達は、企業活動を通して一人ひとりがそれぞれの思いで世界と関わり共生していくコラボラティブワールドに向かって行けたらと思うのです。
石井
スペクトルの広さがすごいですね。
谷口
最終的には人々が貢献しあって、それを実感できている生き生きとした世界が望ましいと考えています。例えば「自分のほんのちょっとした行動がシステム全体、社会全体に恩恵をもたらしているということを実感できる世界」です。決して大変なボランティアをしようというのではありません。人はみな、社会に貢献したいと思う生き物であり、利己的な行動が利他を生みそれを実感できる、そんな仕掛けの構築が新たな世界観を生むと思います。
石井
谷口さんの持っているオプティミズム(楽天主義)は好きです。一方、ペシミスティック(悲観的)なビューもとても大切です。実際に今の全く逆のとんでもないことが起きましたね…ケンブリッジ・アナリティカ*3みたいな。僕の一番のヒーロー、ダグラス・エンゲルバートの話をしましょう。彼は、1950 年代にメインフレームコンピュータがミサイルの弾道計算しかできなかった時代に、これから人類が直面するとんでもない問題に人々が結集するためにコンピュータとコミュニケーションはあるんだ、という「コレクティブインテリジェンス(集合知)」のビジョンを提案し、そのプロトタイプとして NLS *4を作るのですが、谷口さんのおっしゃっている「テクノロジーを媒介して、明るい、人々が助け合う未来」というのは、彼が言ったコレクティブインテリジェンスそのものじゃないかなと思いました。現にそれはウィキペディアとかいろいろなところで起きてるわけですよね。オープンソースで世界中で皆が時間を少しだけ分け合いながらコードを書いたりということが、まさに起きている。谷口さんがおっしゃった、そういう時代がすでに到来しつつあるんですね。

誰がどういうふうに、
一番上を押さえるか。

谷口
IIoT(Industrial Internet of things=産業分野におけるIoT)を活用した価値作りに取り組んでいます。また、IIoT の周辺で価値を創造しようとするスタートアップを支援する仕掛けを用意したいと考えています。
石井
少し前までは「マルチメディア」で、ちょっと前は「ユビキタスコンピューティング」、今は「IoT」 という流れですね。
谷口
IoT は非常に現実の世界の話なんですけれど、先ほど話に出たコラボラティブワールドとか、社会問題の貢献といったところに、一気でなくともステップを踏んで行けないかなと考えているんです。先生がトライされている、タンジブルメディアなども、一種のIIoT では、と捉えております。
石井
だと、嬉しいですね(笑い)。
谷口
こういったものを、素晴らしい入手可能な未来へと繋げてゆくことを目指すにあたって、知っておくべきことなどをお聞きしたいのですが。
石井
IoT で悩ましいのは、ガジェットやソフトがいろいろ出ても3 年もたてばニーズがあっという間に変わってしまう。これが最適だといっても、あっという間に次のデバイスやソフトに置き換えられてしまう。この悲しみですよね。今やガジェットの命は短命だけれど、Apple ID、Google のアカウントに紐づけられた情報が一番大切という時代になっていて、そのアカウントの世界も会社ごとに閉じていて、世界には大きな亀裂があるわけです。 だからガジェットがいっぱいあっても、しょせんバベルの塔が壊れてお互いコミュニケーションできなければ、それは悲しいだけ。情報は流水で、いろいろなデバイスとかアプリケーションをつなぐ水路網を高速に流れる。要するにエコシステムですね。誰がどういうふうにその一番上のところを押さえるか、その流れを制するものが勝者になるのでしょう。
*1「タンジブル・ビッツ」
石井裕氏がNTTからマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授に転身した後、1995 年よりスタートさせたコンピュータのユーザーインターフェースの新しい概念。97年「タンジブル・ビッツ(触れることができる情報)」論文発表後は、それを具現化したアプリケーションが様々発表され、ガラス瓶のふたを開けると音楽が流れてくる「music bottles」やビル模型と連動するテーブル「Urp」等、デジタル情報に物理的実体を与える発想は、世界中から多くの驚きと感動をもって注目されている。
*2「ラディカル・アトムズ」
タンジブル・ビッツを進化させた概念として石井氏とタンジブル・メディア・グループが進めている最新研究「ラディカル・アトムズ(励起原子)」。デジタル情報が2 次元を越えてリアルタイムに実体化し、動的に変形可能な物体となるだけでなく、直接操作も可能になるというインターフェースの未来像。
*3「ケンブリッジ・アナリティカ」
英国の政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカによるフェイスブック個人データの不正取得疑惑スキャンダル。米国大統領選挙や英国の欧州脱退に関する国民投票に不正に影響を与えたとも告発されており、今年5 月に同社は廃業。データはフェイスブックの性格診断クイズを利用して収集されたもので、フェイスブック社への批判も高まり株価が一時急落した。
*4「NLS」
1960 年代にダグラス・エンゲルバード率いるスタンフォード研究所で研究・開発が行われたコンピュータシステム。ハイパーテキストリンクやマウス等の実用化を世界で最初に行うなど、さまざまな技術の実用化に成功した。